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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)5234号 判決

三和銀行

事実

原告主張の事実、被告は、昭和二五年三月二〇日頃、額面、金一、三五〇、〇〇〇円、支払期日、昭和二五年五月一五日、支払地及び振出地共に、大阪市、支払場所、三和銀行順慶町支店、振出日、白地、受取人、原告なる約束手形一通を振出して原告に交付し、原告は右手形の所持人となり、その白地の振出日欄に昭和二五年三月二〇日と補充して支払期日の翌日である昭和二五年五月一六日右手形を支払場所に呈示したが、その支払を拒絶せられた。

原告は本件約束手形金債権の時効中断の事由として破産宣告の申立を主張した。

理由

被告が原告主張の約束手形一通を振出して原告に交付し、原告が右手形の振出日欄の白地を補充して手形要件を完備さした上その支払期日の翌日に右手形を支払場所に呈示して支払を求めたがその支払を拒絶せられたことは原被告間に争がない。

よつて被告の抗弁のうち、相殺の抗弁についての判断は暫らく置き、先ず時効消滅の抗弁について判断する。本件の約束手形の支払期日は昭和二五年五月一五日であつて本訴の提起日昭和三一年一二月八日まで六年以上を経過しているので、その間時効中断事由の存しない限り、約束手形の振出人に対する手形上の請求権の消滅時効発効の期間を超過していて、原告の右約束手形上の債権は消滅しているといわねばならない。原告は昭和二六年一月九日被告の右手形債務承認によつて時効が中断し、且つその支払猶予によつて同年一月三一日まで右時効期間は進行せず、その後、昭和二八年一一月一一日原告が本件手形債権に基いて被告に対して為した破産申立によつて更に時効が中断したと主張する。

しかしながら、破産の申立は債務者が支払をすることができないことを裁判所に申告して、その債務者に対する裁判所の破産宣告を促す申立であつて、特定債権の支払の請求ではない。破産申立書と同時に提出する債務者の財産の概況書並に債権者及び債務の一覧表中に特定債権が掲示してあつても、右破産申立がありこれによつて、破産事件が裁判所に繋属したというだけでは、右債権の時効中断の理由にはならない。債務者破産の場合特定の債権は破産法第二二八条所定の手続に従つて破産債権として届出られたとき始めて債務者に対してその債権の請求があつたということができるのであつて、時効中断事由である請求の一態様としての民法のいわゆる破産手続参加とは右届出を指すのである。本件の被告を債務者として原告が破産の申立をしたことは原被告間に争がないが、被告に対して破産宣告があつたこと、及び本件手形金債権が右破産事件の債権届出期間内に届出られたことについては原告は主張も立証もしないから、(弁論の全趣旨によれば、被告に対する破産宣告はなされていないことを認められる。)右破産事件に関連して本件手形金債権の時効中断の事由が発生したと認めることはできない。そうしてみると、本訴の提起は、原告主張の被告による債務の承認後の時効の起算日昭和二六年一月三一日から既に四年半以上を経過しているので、仮りに原告の主張するように、昭和二六年一月九日被告が原告に対して本件手形金債務あることを承認し、同時に原被告間に右債権の弁済期限を同年一月三一日まで猶予する契約が成立したとしても、本件手形金債権が時効によつて消滅したことは明白である。

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